◆完全新作『ARIA The AVVENIRE』とは?
――『ARIA The AVVENIRE』はどのような作品ですか?
佐藤 3本の話で構成されていて、それぞれアニメ化されなかった原作のエピソードを拾うような形になっています。旧作では1期が「奇跡」、2期が「出逢い」、3期が「はじまり」というテーマを設定していましたが、今回は「未来」ということで、念頭にあるのは過去から未来へとネオ・ヴェネツィアが続いていることが伝わるようなものですね。
飯塚 佐藤監督や天野先生と共有していたコンセプトに、単なる同窓会的な作りにはしないというのがあります。おなじみのキャラクターが集まって旧交を温めるだけではない、新たに得られるものがある作品を目指しているんです。
佐藤 原作のエピソードを拾うにしても、オリジナルのパートをプラスした上で1本のお話として成立する作りになっていますからね。
飯塚 3本のうち1本は、これをやらないと2期を真の意味で完結させたことにならないというエピソードですし、他の話数についても意見の齟齬はそんなになかった印象です。そもそも主だったエピソードはTVアニメで消化していますし、シリーズ構成上やむなく外したものとなるとかなり限られてきますしね。
――ファンにとってはキャストも気になるところだと思います。こちらはどうなりますか?
飯塚 旧作と同じキャストに集まっていただけることになりました。
佐藤 3期の放映が終わってからだいぶ経ちますが、基本的にあまり作った芝居はしていませんからね。絵を見て声を出せば、すぐに馴染んでくれるのではないでしょうか。
天野 同じキャストでまたこの子たちが動く姿が見られると思うと、本当に楽しみで! TVアニメがすごくきれいな終わり方をしたので、ファンの方もどんな作品になるのかすごく気になっていると思います。
佐藤 ついでだし、もう新キャラクターのことも言っちゃったら?
飯塚 そうしますか。じゃあ、予定を変更して明かしちゃいましょう(笑)。どんな立ち位置で出てくるかは秘密ですが、新キャラクターも登場します。もちろん、キャラクターデザインは天野先生です。
天野 そうなんです! あらかじめキャラクターの性格設定をうかがっていたので、それに合わせてデザインさせていただきました。久しぶりに新しいキャラクターを描くことになったので、『ARIA』らしさを思い出しながらの作業がなんだか新鮮でした。
飯塚 新キャラクターといえば、『ARIA』のキャラクター名には頭に「あ」が付くルールがあるので、今回もいろいろ考えましたね。
天野 あのルールって、じつは最初から意識していたわけじゃなかったんですよ。連載がだいぶ進んでからキャラクターの名前が全員「あ」から始まっていることに気づいて、だったらこのまま統一しようと。おかげでその後は、名前を考えるのにけっこう苦労しました(笑)。
――新作ならではの試みはありますか?
佐藤 1期から10年経ってアニメを取り巻く環境もだいぶ変わりましたから、3Dのような現代技術も駆使しています。
天野 どの辺を3Dで表現するんですか?
佐藤 例えばゴンドラですね。ゴンドラは描くのがけっこう難しくて、人によってサイズやフォルムに微妙な差が出てしまいがちなんです。3Dでひとつしっかりしたものを作ってしまえば形状にブレが生じることもないですし、そうやって効果的に導入できたらと思っています。
――ちなみに、今回もヴェネツィアの取材には行かれるのですか?
佐藤 今回は行っていません。その代わりに、松竹の人がプライベートでヴェネツィア旅行に行くというので写真撮影をお願いしました。
飯塚 1枚だけかと思ったら、どんどん要求が増えてましたよね?
佐藤 最初は具体的な場所を指定してお願いしていたのが、最終的には「コンテの絵を送りますので、これに似たカフェを探して撮ってきてください」でしたからね(笑)。でも、目的が増えて楽しい旅になったんじゃないでしょうか。最後のオーダーは、自分でもちょっとひどかったと思いますけど(笑)。
飯塚 ヴェネツィア取材といえば、1期のときは佐藤監督が飛行機に乗るのをいやがったので、こちらが無理やり説得して行ってもらったんですよ。ところがいざ行ってみると、すっかりお気に召しちゃって(笑)。以降は2期、OVA、3期と新作の制作が決まるたびに、ヴェネツィアを取材しないと作れない、みたいな感じになってましたよね。
佐藤 やっぱり現物を見ると違うんですよ。『ARIA The OVA ~ARIETTA~』はそれが顕著に出た例で、取材中に大鐘楼の中を運よく見せてもらうことができたんです。実際に中に入ると、階段で上がると思っていたところがスロープだとわかって、塔内に響く音まで聞くことができたんです。しかも、その音が呼吸のように聞こえるという素敵な体験付きで(笑)。そうやって現地で直接見聞きしたことが、作品のクオリティを上げるのにすごく貢献してくれたんですよね。
天野 私も何度かヴェネツィアに行きましたが、得られるものがすごく多かったです。
――本作の見所を話すことができる範囲で教えてください。
天野 こちらからの提案を形にしていただいた部分もあるので、それがどのようにアニメ化されるのか楽しみです。あとは音楽にも期待ですね。旧作のときもそうでしたが、音楽が付くと作品の雰囲気に一段と広がりが出ますからね。
佐藤 音楽の使い方は新作でも踏襲しています。『ARIA』の音楽って、ちょっと特殊なんですよ。一般的なアニメは何か出来事が起きたら音楽を入れますが、『ARIA』はその逆で、何もないところで音楽を流して事件が起こったら止めるというスタンスなんです。
飯塚 TVアニメをやっているときから、劇場で5.1ch仕様にしてかけたら絶対に映える作品だと思っていたので、ようやく念願が叶いました。きっと満足いただけるクオリティの映像をお届けできると思いますので、期待していてください。
――最後に、皆さんにとって『ARIA』とはどんな作品ですか?
天野 『ARIA』という作品は、幸せなことや楽しいことの詰め合わせです。漫画の連載やアニメ化を通してファンの皆さんとたくさんの幸せを共有できたことが嬉しかったですし、あのときと同じ思いをまた味わえるのを楽しみにしています!
飯塚 作品が終わってもずっと身近にあり続けている感覚があって、ふとしたきっかけでこの子たちに会いたくなるし、この世界に行きたくなるんですよね。僕にとって『ARIA』とは、そういう作品です。プロデューサーとしての立場を越えて、やっぱり純粋に好きなんだと思います。おそらくファンの方も同じ気持ちではないでしょうか。新作アニメーションとブルーレイでまた会えるのが、今から待ち遠しいです。
佐藤 『ARIA』は僕にとって贈り物だったのかな。アニメの演出を30年ほどやってきましたが、もらったものがとても多い作品です。その意味では、僕のキャリアの中でも重要な位置を占めると言ってもいいと思います。一方で、新たなシリーズを作るたびに越えるべきテーマがあって、常にハードルであり続けている作品でもあります。今回もきれいに幕を下ろした作品をもう一度描くという大きなハードルがありますので、気を緩めず丁寧に作っていきたいですね。あとは、作り手としての思いとは別に、やっぱりこの世界と、そこにいるキャラクターが好きですからね。皆さんとまた一緒にネオ・ヴェネツィアに行きましょう、という気分です。
|