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special

蒼のカーテンコール
スペシャル座談会Ⅱ
[総監督]佐藤順一
×
[監督]名取孝浩
×
[プロデューサー]飯塚寿雄
×
[原作担当編集]萩原達郎
【第3回】『ARIA The CREPUSCOLO』公開を迎えての想い
『ARIA』といえば音楽も魅力のひとつです。新作ならではの試みはありましたか?
佐藤
前作の『ARIA The AVVENIRE』では既存の曲を使っていたんですけど、今回は新曲を発注しています。どの曲もいい意味で新曲とわからないぐらい『ARIA』っぽい雰囲気に仕上がっているので、楽しみにしていただければ。
名取
今回は僕がコンテを描いているんですけど、自分なりに「このシーンはこんな感じの音楽かな」とイメージしながら作業するんです。でも出来上がったフィルムを観ると、自分の想像を超えているんですよね。その差が生まれるのは、佐藤(順一)さんの音楽の使い方が素晴らしいからだと思っていて。使う曲の見極めって、どのタイミングでやっているんですか?
佐藤
音楽のプランは、シナリオの段階でざっくりとイメージします。東映動画(現・東映アニメーション)出身ということもあってそのやり方に慣れているんですけど、コンテ、アフレコ、ダビング(映像にアフレコで収録した音声や音楽、効果音を合わせる工程)の段階でもその都度イメージして、よりよいと思った方向に軌道修正していく感じです。
主題歌はアレッタ役の安野(希世乃)さんが歌われていますね。
佐藤
主題歌の人選はこれまでと同様、フライングドッグの福田(正夫)さんから打診していただきました。
飯塚
エンディングテーマの『echoes』は民族音楽的な雰囲気があって、いつもとはちょっと違う感じですよね。あれはフライングドッグさんからの提案でしたっけ?
佐藤
何曲かデモを聴かせてもらったんですけど、その中にプリミティブというかちょっと異世界感のある曲があって。それが目新しくて面白いと思い、選ばせてもらったんです。
飯塚
シリーズ15年目で、楽曲的にまた新たな一面を見せられた気がしました。
佐藤
そうかもしれないですね。基本的には原点回帰なんですけど、ちょっと新しい角度が欲しい気持ちもありましたので。
本作の見所を教えてください。
飯塚
いろんな年齢のアリスを楽しめるところでしょうか。60分という上映時間の中で、オレンジぷらねっとに入る前から現在までの各時代が全部入っていますので。
萩原
全編見所なんですけど、個人的には魔女っ子ベファーナのアニメ化を推したいですね。ファンの方からもアニメで観たいという声が多かったエピソードですし、それを現在の制作技術で表現するとどうなるかという面でも興味深いところだと思います。完成した映像を拝見しましたが、アリスがボーヴォロ宮にたどり着くまでの見せ方や、クリスマスの装いに包まれた街のシーンでの小物の再現度などが素晴らしくて。アリスがしている髪飾りのムッくんはもちろん、ショーケースの中にある展示物まで愛情たっぷりに描いてくれています。細部にまでこだわる伊東(葉子)さんの熱量が、ここでも大いに発揮されていると感じました。
名取
アリスの昇格シーンは同じ場面を二度アニメ化したことになるわけですが、どちらも自分が関わっているんです。ですから、前回とどこまで変えるかを考えたりしながらの作業でした。最終的に作画さんもすごく頑張ってくれましたし、美術さんも「ここはとくに上手い人にやってもらいました」と言っていた通り、非常に素晴らしいシーンになったと思います。
佐藤
やはりアリスとアテナさんの謳のシーンは、ぜひとも観ていただきたいところです。アテナさんの謳声を担当した河井(英里)さんの謳を新規で録ることはできないので、すでにある音源に合わせて広橋(涼)さんに歌ってもらっています。音楽だけでなく絵的な部分も含めて想像以上にきれいなシーンに仕上がったので、期待していただきたいですね。
飯塚
それと今回は、天野先生に原画も描いていただいています。アテナさんが出演するオペラ公演のポスタービジュアルがそうなのですが、こちらにも注目です。
萩原
TVシリーズで原画を担当させていただいたときは天野先生の希望を汲んでいただく形でしたが、今回は伊東さんからの発案をJ.C.STAFFさん経由で伝えていただきました。僕が原作を担当していて思う天野先生のすごさのひとつに、服や小物がいつも違った形で自然に出てくるというのがあるんです。男性のクリエイターだとゼロから設定を起こしていく作業でも、女性のクリエイターだと自然にできるようなところがあります。その辺が天野先生と伊東さんとでシンクロして、ポスターという作中の小物をより魅力的なものにする今回のコラボレーションに繋がった感じがしています。
新作の公開を迎えた現在の心境をお聞かせください。
名取
制作に関わっている立場からすると、『ARIA』って常にあるわけじゃなくて途切れ途切れにやって来る感じなんですよね。僕は『ARIA』が演出家として出身地だと思っているので、こうしてまた新作に参加することができて自分の家に帰ってきたような気持ちになれました。
飯塚
『ARIA』という作品が発しているメッセージは15年前から変わっていないわけですけど、それがコロナ禍という今の時代においてより響くものになっているような気がしていて。昨年の4月に制作の決定を発表したときの大きな反響を見ても、そのことを強く感じました。それをぜひ劇場で味わっていただければと思います。
萩原
幼少期に聴いた音楽を大きくなってから偶然耳にした瞬間、フラッシュバックのように過去へ引き戻される感覚がありますよね。先ほど名取さんが「自分の家」と表現されたことを僕なりに言い換えると、『ARIA』の新作に触れることってそれに近いような気もして。今回も劇場に入った瞬間、きっといろんな懐かしい想いがよぎると思いますが、一方でコロナ禍で会いたい人と気軽に会えない現在に対する切ない気持ちも沸き上がってくることと思います。この作品をご覧になる皆様に、帰ってこられる場所があり、この先もまた歩いていけるんだって気持ちを届けられたら嬉しいです。
佐藤
TVシリーズの第1期をやっていた頃に比べると、アニメの作り方や観る方の環境など、いろんなものが大きく変わってきています。今回の作品自体にもこれまでとは違う要素が数多くあるわけですが、そういった中でも『ARIA』の世界観だけは不変なんですね。観た人が懐かしい場所に帰ってきた気持ちになれるのだとしたら、おそらくそういう部分が大きいのかな、と。その上で、誰が誰を好きかという関係だけで成り立っているところが、『ARIA』のすごいところだと感じていて。このような状況下ではありますが、ファンの皆さんには『ARIA』を好きという気持ちを通じて繋がりを感じてもらえたらと思います。そして、この作品を楽しんでいただき、また次の“願いの種”を育てていただけると嬉しいです。