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special

蒼のカーテンコール
スペシャル座談会Ⅲ
[総監督]佐藤順一
×
[監督]名取孝浩
×
[プロデューサー]飯塚寿雄
×
[アニメーションプロデューサー]松尾洸甫
×
[原作担当編集]萩原達郎
【第3回】蒼のカーテンコール最終章を迎えての想い
音響についてお聞きします。まず音楽の面で本作ならではのアプローチはありますか?
佐藤
基本的に『ARIA』の世界観に寄り添う音楽であることに変わりはありません。ただTVシリーズの場合は、この話数のこのシーンに使う曲みたいな想定で発注するわけじゃないんですね。それに対して劇場作品の『ARIA The CREPUSCOLO』と『ARIA The BENEDIZIONE』では、わりと具体的なシーンを想定して音楽を発注しています。とりわけ『BENEDIZIONE』では、作品の雰囲気を反映して『ARIA』にしては珍しくアクション色の強い曲があったりして。既存曲で近いのは「逆漕ぎクイーン」ぐらいしかないと思います(笑)。それでも全体を通して見ると、どれが昔の曲だったかわからないぐらいにちゃんと『ARIA』の音楽になっているんです。
名取
『ARIA』にとって、音楽は絶対に外せない要素じゃないですか。ですから極端なことを言えば、目を閉じて音楽だけでも成立する絵コンテというんですかね。それぐらいの感じがひとつの理想だと思いました。
佐藤
名取君は絵コンテ切るとき『ARIA』の音楽を聴く?
名取
聴きはしないんですけど、頭の中で流れるときはあります。ここはこの曲で、みたいに。
佐藤監督は聴かれるんですか?
佐藤
他の作品ではそうでもないのですが、『ARIA』のときはけっこう聴きます。絵コンテやるときに、作品の空気感に浸りながら描いたほうがいいこともあるので。それに、音楽があるから絵を10秒以上止めても大丈夫という『ARIA』のモードになるには、やっぱり実際に聴かないと(笑)。じゃないと、がまんできずにカットを変えたくなってしまう。
名取
たしかに音楽を聴いてないと、10秒止めるのは勇気がいるかもしれない(笑)。
佐藤
曲の合わせ方で言えば、歌の要素があった『CREPUSCOLO』のときはガチガチに合わせていたんです。でも『BENEDIZIONE』に関しては、音楽を前提に絵コンテを組み立てることまではしていないですね。
萩原
以前、名取監督が音楽を入れるタイミングが1秒変わるだけで、泣けるポイントが全然変わってくるんだ、とおっしゃっていて。その話を聞いたとき、佐藤監督はそこまで考えて音楽の入れ方をプランニングなさっているんだ、と感動した記憶があります。
飯塚
牧野(由衣)さんの歌の入り方も含めて、佐藤さんと音楽演出の(佐藤)恭野さんによる『ARIA』の音の世界が満喫できるものになっていると思います。ですから、ダビング(アフレコで収録した音声と音楽や効果音を映像に合わせる工程)のときに僕らから意見することは何もなくて。いつもと違う雰囲気が漂いながらもちゃんと『ARIA』になっているのは、佐藤夫妻が心地いい着地点をうまく設定してくださっているおかげではないかと。
佐藤
最終章としてきれいにまとめることができたのは、牧野さんの『ウンディーネ(~2021 edizione~)』があったおかげです。
飯塚
『ウンディーネ』の破壊力はすさまじいですね。歌の冒頭が流れた瞬間から、あ、フィナーレなんだ、となりますから。涙ボタンがポンと押されるんです。
松尾
エンドロールの演出も相まって、泣けますよね。
佐藤
最後はやっぱり『ウンディーネ』かな、という気分はみんなの中になんとなくあったと思うんです。なのでフライングドッグの福田(正夫)さんが、最後なので牧野さんにもう一度登板いただきましょう、と提案してくださったときはぜひという感じでした。
アフレコはいかがでしたか?
佐藤
コロナ禍の最中ですから、全員一緒ではなくバラバラでの収録でした。これまで何度も話していますが、スタジオに入ったらBGMがかかっていて紅茶も飲めて、誰かがお芝居をしているときいい音楽をかけてやると皆川(純子)さんが泣くというのが、『ARIA』におけるアフレコの日常だったんです。前作に続いて今回もそれができなかったのは残念でした。ただ藍華と晃さんは日程をうまく合わせてもらい、師弟コンビの掛け合いを録れたんです。当日も音楽を流さないでやったんですが、そしたらアフレコが終わったあとで皆川さんがダダダッとやって来て「監督! 泣きませんでした!」って(笑)。そう宣言されたのがめちゃめちゃ悔しくて、絶対泣ける音楽を流せばよかったと思いました。
飯塚
なんの戦いですか(笑)。
佐藤
音楽なんか流さなくても皆川さんなら泣くと思っていたんですけど、成長していましたね(笑)。
萩原
監督がおっしゃった通り、先生としても収録前の雰囲気とかお茶会がなくなってしまったことを淋しがっていました。そんな中でも、明日香さんの役でキャスティングされた島本須美さんの収録を見られたのはすごく嬉しかったようです。
島本さんのキャスティングは佐藤監督の希望だったのですか?
佐藤
そうです。完全にご指名で、スケジュールが合えばぜひお願いします、と。
名取
『ARIA』のアフレコは、声優さんとの信頼関係のようなものがありますよね。テストなしでバンバン録っていくのを見ていると、これはもう技術だけの話じゃなくて積み重ねてきた信頼関係のなせる技だと感じます。アフレコに参加しながら、ずっと一緒にやってきた人じゃないとわからない感覚だろうな、と改めて思いました。
松尾
前作から思っていたことですが、劇場作品にしてはアフレコの時間がものすごく短いですよね。
飯塚
早く終わるのは、佐藤さんがテストなしで即本番をやるからですよ。早く終わりすぎてキャストから、淋しいからダメ出しをしてください、とか、もうちょっとやりたいんですけど、といった珍しいクレームが出るぐらいで。なのに佐藤さんは、もう大丈夫です、と言って冷酷に終わらせるという(笑)。
蒼のカーテンコール最終章を迎えた現在の心境をお聞かせください。
飯塚
『ARIA』とこんなに長いお付き合いになるとは思わなかったというのが本音で、TVシリーズが終わった時点で一度やり切ったつもりではいたんです。でも、一ファンとしてどうしても新作を観たくなって『AVVENIRE』を作り、同じ心境のファンがたくさんいたことで、さらに『CREPUSCOLO』と『BENEDIZIONE』まで作らせてもらうことができました。蒼のカーテンコールをデザートだと位置づけるなら、アニメーション『ARIA』というフルコースはこれで終わりとなります。多くのものを与えてくれた作品に、ありがとう、お疲れさまでした、と言いたいですね。『BENEDIZIONE』は最終章として相応しい内容に仕上がっていますので、ぜひ映画館で観ていただけると嬉しいです。
萩原
『CREPUSCOLO』のときもそうでしたが、作品を観ていると昔の出来事がフラッシュバックすることがあって。とくに印象深かったのは、TVシリーズ第1期のときの思い出ですね。先生にとって初めてのアニメ化でしたが、佐藤監督が受けてくださるということで幸せを感じながらやり取りを進めていて。そんなときにライツを担当する人間を通して監督が、第1期で終わるのはもったいないからもうちょっとやりませんか、と言われていると聞いたんです。それを知って、深夜に一人でガッツポーズした記憶があります(笑)。そのあとすぐ先生にも連絡して、二人で大いに盛り上がりました。
飯塚
たしか放送が始まって1ヵ月ぐらい経った頃におっしゃってました。
萩原
たぶんずっとお付き合いいただいているファンの皆さんも同じで、作品に触れることでその都度いろんな想いがあふれると思うんです。皆さんに寄り添い続けるような作品に関わることができたのは、本当に幸せだったと思います。ありがとうございました。
松尾
『ARIA』のアニメが始まった16年前、私はまだギリギリ十代ぐらいの年頃でまだ社会人でもなかったんです。なので、最後の最後に美味しいところだけいただいちゃったみたいで、非常に恐縮しています。今回のインタビューでクオリティに対するお褒めの言葉までいただきこそばゆい部分もあるのですが、ファンの皆様にはそういった話は一旦忘れていただき、まっさらな気持ちで作品を楽しんでいただけると幸いです。僕らとしては、やれることはやり切りました。あとは実際に作品を観て、感じ取ってもらえればと思います。このような作品に参加させていただき、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
名取
自分の場合、企画段階から作品に関わる立場ではないんですね。そうすると、ひとつの作品が終わったら完全に距離を置く形になるんです。なので、そこから何年か経って『ARIA The AVVENIRE』に呼ばれたときは、完全に不意をつかれました。しかも『AVVENIRE』が終わったと思ってホッとしていたら、またすぐに劇場作品をやるとなって。忘れた頃にやってくる祭りみたいなものですよ。だから制作中は劇場祭りだワッショイワッショイ!となるんだけど、それが終わるとふと淋しさを感じたりもする。J.C.さんに呼び出されることはもうないんだな、みたいな(笑)。でも祭りはいつまでもあり続けるものですし、またいつか開かれるときが来ると思っています。そのときは早めに言ってください(笑)。
佐藤
『ARIA』がいろんな人に愛されている作品であることを、時が経てば経つほど実感します。我々作り手側が作品に愛情を持つのは普通ですけど、お客さんたちにも同じぐらいの愛情を持ってもらえている。ここまで来ると作り手と観客という区別は必要ない気もするし、ここまでの作品は珍しいと思います。もともとは最初の1クールで終わるつもりで構成したのに、第2期が決まってさらに第3期もあって。『AVVENIRE』でいよいよ本当に終わりだと思ったら逃げ水のようにどんどん先に続いていくという、名取君が言ったようにまさに祭りのような状態。飯塚さんが、これで終わり、と言えば言うほどなんだか眉唾な感じもしてきました(笑)。
飯塚
(笑)。
佐藤
僕が関わるかはわかりませんが、『ARIA』という作品自体はこれからも続いていく気がしています。今回の作品もそうですが、映画を観てくださいというより、みんなで『ARIA』という世界を楽しみましょう、という気持ちです。